「行政監視=法律執行の監視」は本質的に政府と官僚機構の活動に対する監視であり、強い第三者的立場が求められます。しかし、議院内閣制の下で政府をつくり出す主体である衆議院には本来ふさわしくない機能と言えます。衆議院と内閣の関係の強さを考えれば、衆議院内閣制と言っても良いでしょう。そのため、
・「行政監視」は、より第三者的な立場にある参議院を中心にすべきである、
・特に行政の組織と人事に対する統制という問題意識が重要であり、政府と官僚機構をつくる衆議院、それを監視する参議院という新たな視点から国会の行政統制を見直すべきである、
と荒井達夫は主張しています(※)。法律の執行は政府と官僚機構によって行われますが、それらを実質的につくり出すのは衆議院であり、参議院はそれを実質的に監視する役割を果たすべきである、という考え方です。国民主権に基づく二院制と議院内閣制という仕組みの中で、第二院の参議院は第一院の衆議院を具体的にどうバックアップすればよいのか。それが「行政監視=法律執行の監視」であり、「行政監視」の理論と制度を構築するためには、日本国憲法が定めるわが国統治機構の在り方の基本に視点を置く必要がある、と考えます。すなわち、「行政監視」を単なる議会の機能や権限として捉えるのではなく、参議院の役割として捉えるということです。言い換えれば、参議院の存在意義は「行政監視」にあるということです。
※2016.2.17参議院憲法審査会 荒井達夫参考人発言PDFファイルを表示
「行政監視」を参議院の役割として捉え、すなわち参議院を行政監視のための院とすることで、選挙制度との関係も明らかになります。投票の価値の平等と全国民を代表する議員を基本条件とする選挙制度です。「行政監視」は、民主主義の原理に基づき、公共の利益(=全国民に共通する社会一般の利益)の実現のために、主権者国民に代わって、国権の最高機関である国会が行う活動であるからです。「行政監視」は、国民主権(主権は国民全体にある)を支える仕組みであり、このことを徹底するためには全ての国民が平等の条件で政治に参加できる制度が不可欠です。この意味で、参議院を行政監視のための院であるとしながら地方重視の選挙制度を採用することはできない(※)、と私は考えます。そして、この考え方は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」という憲法第43条に完全に合致します。行政監視とは→参議院とは→選挙制度とはという思考の流れで、あるべき統治機構の説明が合理的にできるのです。国民主権に基づく二院制と議院内閣制という日本国憲法の仕組みの中で、参議院の役割を「行政監視」であると考えれば、それに対応して選挙制度も決まってくるということです。院の役割と選挙制度は目的と手段の関係にあり、これは当然です。また、院の役割(目的)と切り離された選挙制度(手段)の議論はナンセンスです。
※2022.11.9参議院憲法審査会 西田実仁議員発言PDFファイルを表示
参議院の選挙制度をどうするかという問題では、まず参議院の役割をどのように考えるのか、次にそれを担う人材をどのように選ぶのか(→選挙制度)、という順序の論理的な議論(※1)をすべきです。どういう役割の会議体かわからずに、構成員をどう選ぶか議論しても無意味だからです。この点、参議院の「独自性」という意味不明の言葉に囚われて、学者も有識者も国会議員も皆ずっと、論理的な順序を無視した変な議論を繰り返してきたと私は思っています。参議院が「独自性」を発揮するために参議院と衆議院の構成を変えるという主張(※2)が、その典型です。しかし、本来考えなければならないのは参議院の役割であり、参議院の「独自性」ではありません。国民主権に基づく二院制と議院内閣制という仕組みの中で、参議院はどうしたら第二院としての役割を適切に果たすことができるのか、政治行政の現状を踏まえた具体的な議論をすべきなのです。意味不明の「独自性」のために両院の選挙制度を変えるという発想自体が異常であり、この学者の主張に従えば、選挙制度に合わせて参議院の役割を変える、という本末転倒の馬鹿馬鹿しい結論になりかねません。参議院の選挙制度(手段)は参議院の役割(目的)によって規定されるのであり、その逆ではあり得ないのです。「参議院の独自性の発揮」は、依然として参議院改革協議会の主要論点の一つとなっていますが、問題の本質(参議院の役割とは何か)を見えなくする有害無益の無駄な議論であり(※3)、議論の正常化のためには直ちに廃棄されるべきだと私は考えます。
※1 2016.11.16参議院憲法審査会 西田実仁議員発言PDFファイルを表示
※1 2016.4.6参議院国の統治機構に関する調査会 渡邉美樹議員発言PDFファイルを表示
※2 2013.5.22参議院憲法審査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示
※2 2016.2.24参議院国の統治機構に関する調査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示
※3 2016.2.24参議院国の統治機構に関する調査会 竹中治堅参考人発言PDFファイルを表示
・行政監視とは何かを考えずに少数者調査権について議論をする、
・参議院の役割とは何かを考えずに選挙制度について議論をする、
このような倒錯した議論の仕方を続けている限り、参議院の将来像を正しく描くことはできないでしょう。特に学者の責任は重大だと、元参議院職員で大学教員の私は痛感しております。論点(参議院の役割と選挙制度の関係)を正しく指摘する国会議員がいる一方で、問題の本質(参議院の役割とは何か)が見えない学者が議論を混乱させていると考えられるからです。国会論議において、学者は現状を分析し、論点を整理し、改善策を提示することが期待されていますが、全くそうなっていません。最大の問題は、その著しく非論理的な議論の仕方にあり、「行政監視」を理解していない学者の議論には根本的な欠陥があるのです。国会の議員と職員は、「参議院の独自性が永遠のテーマ」(※1)という学者の迷説に惑わされることなく、本当に必要な議論は何か、国権の最高機関を支える実務家として論理的に考えるべきです。その際重要なことは、二院制を支持する者の共通認識は、参議院は行政監視機能をより重視すべきである(※2)ということです。
民主主義の原理に基づいて、「行政監視」の意味を考え、参議院の役割として捉え、選挙制度の議論につなげる体系的な説明が必要です。現行の学説にはこれが完全に欠けています。学者は、「行政監視」とは何かを考えないため、「行政監視」を定義できず、「行政監視」を参議院の役割として捉えることができません。また、選挙制度が参議院の役割(目的)を達成するための手段であるという基本的な認識がないため、衆参の違いが出ればよいという、何でもありの選挙制度の議論が展開されています(※)。これは、参議院改革の議論が混迷する大きな原因の一つと言えるでしょう。参議院の役割(目的)を真正面から議論せず、選挙制度(手段)の議論を展開するという愚を続けている限り、参議院のあるべき姿は決して見えてきません。このように、学者が「行政監視」とは何かを考えないことの害悪は重大です。私は、行政監視と二院制に関する学者の議論は、著しく非論理的で、学問の体を成しておらず、思想的土台である民主主義の原理から体系的に作り直す必要があると考えます。それは、机上の付け焼き刃のような議論ではなく、国会の実務を踏まえた確かなものでなければなりません。この問題は、私がこのホームページ「行政監視研究会」を開設する第一の動機になりました。今こそ国会の実務家たち(議員と職員)が覚醒すべき時なのです。
※2016.11.16参議院憲法審査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示
・「行政監視」は、より第三者的な立場にある参議院を中心にすべきである、
・特に行政の組織と人事に対する統制という問題意識が重要であり、政府と官僚機構をつくる衆議院、それを監視する参議院という新たな視点から国会の行政統制を見直すべきである、
と荒井達夫は主張しています(※)。法律の執行は政府と官僚機構によって行われますが、それらを実質的につくり出すのは衆議院であり、参議院はそれを実質的に監視する役割を果たすべきである、という考え方です。国民主権に基づく二院制と議院内閣制という仕組みの中で、第二院の参議院は第一院の衆議院を具体的にどうバックアップすればよいのか。それが「行政監視=法律執行の監視」であり、「行政監視」の理論と制度を構築するためには、日本国憲法が定めるわが国統治機構の在り方の基本に視点を置く必要がある、と考えます。すなわち、「行政監視」を単なる議会の機能や権限として捉えるのではなく、参議院の役割として捉えるということです。言い換えれば、参議院の存在意義は「行政監視」にあるということです。
※2016.2.17参議院憲法審査会 荒井達夫参考人発言PDFファイルを表示
「行政監視」を参議院の役割として捉え、すなわち参議院を行政監視のための院とすることで、選挙制度との関係も明らかになります。投票の価値の平等と全国民を代表する議員を基本条件とする選挙制度です。「行政監視」は、民主主義の原理に基づき、公共の利益(=全国民に共通する社会一般の利益)の実現のために、主権者国民に代わって、国権の最高機関である国会が行う活動であるからです。「行政監視」は、国民主権(主権は国民全体にある)を支える仕組みであり、このことを徹底するためには全ての国民が平等の条件で政治に参加できる制度が不可欠です。この意味で、参議院を行政監視のための院であるとしながら地方重視の選挙制度を採用することはできない(※)、と私は考えます。そして、この考え方は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」という憲法第43条に完全に合致します。行政監視とは→参議院とは→選挙制度とはという思考の流れで、あるべき統治機構の説明が合理的にできるのです。国民主権に基づく二院制と議院内閣制という日本国憲法の仕組みの中で、参議院の役割を「行政監視」であると考えれば、それに対応して選挙制度も決まってくるということです。院の役割と選挙制度は目的と手段の関係にあり、これは当然です。また、院の役割(目的)と切り離された選挙制度(手段)の議論はナンセンスです。
※2022.11.9参議院憲法審査会 西田実仁議員発言PDFファイルを表示
参議院の選挙制度をどうするかという問題では、まず参議院の役割をどのように考えるのか、次にそれを担う人材をどのように選ぶのか(→選挙制度)、という順序の論理的な議論(※1)をすべきです。どういう役割の会議体かわからずに、構成員をどう選ぶか議論しても無意味だからです。この点、参議院の「独自性」という意味不明の言葉に囚われて、学者も有識者も国会議員も皆ずっと、論理的な順序を無視した変な議論を繰り返してきたと私は思っています。参議院が「独自性」を発揮するために参議院と衆議院の構成を変えるという主張(※2)が、その典型です。しかし、本来考えなければならないのは参議院の役割であり、参議院の「独自性」ではありません。国民主権に基づく二院制と議院内閣制という仕組みの中で、参議院はどうしたら第二院としての役割を適切に果たすことができるのか、政治行政の現状を踏まえた具体的な議論をすべきなのです。意味不明の「独自性」のために両院の選挙制度を変えるという発想自体が異常であり、この学者の主張に従えば、選挙制度に合わせて参議院の役割を変える、という本末転倒の馬鹿馬鹿しい結論になりかねません。参議院の選挙制度(手段)は参議院の役割(目的)によって規定されるのであり、その逆ではあり得ないのです。「参議院の独自性の発揮」は、依然として参議院改革協議会の主要論点の一つとなっていますが、問題の本質(参議院の役割とは何か)を見えなくする有害無益の無駄な議論であり(※3)、議論の正常化のためには直ちに廃棄されるべきだと私は考えます。
※1 2016.11.16参議院憲法審査会 西田実仁議員発言PDFファイルを表示
※1 2016.4.6参議院国の統治機構に関する調査会 渡邉美樹議員発言PDFファイルを表示
※2 2013.5.22参議院憲法審査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示
※2 2016.2.24参議院国の統治機構に関する調査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示
※3 2016.2.24参議院国の統治機構に関する調査会 竹中治堅参考人発言PDFファイルを表示
・行政監視とは何かを考えずに少数者調査権について議論をする、
・参議院の役割とは何かを考えずに選挙制度について議論をする、
このような倒錯した議論の仕方を続けている限り、参議院の将来像を正しく描くことはできないでしょう。特に学者の責任は重大だと、元参議院職員で大学教員の私は痛感しております。論点(参議院の役割と選挙制度の関係)を正しく指摘する国会議員がいる一方で、問題の本質(参議院の役割とは何か)が見えない学者が議論を混乱させていると考えられるからです。国会論議において、学者は現状を分析し、論点を整理し、改善策を提示することが期待されていますが、全くそうなっていません。最大の問題は、その著しく非論理的な議論の仕方にあり、「行政監視」を理解していない学者の議論には根本的な欠陥があるのです。国会の議員と職員は、「参議院の独自性が永遠のテーマ」(※1)という学者の迷説に惑わされることなく、本当に必要な議論は何か、国権の最高機関を支える実務家として論理的に考えるべきです。その際重要なことは、二院制を支持する者の共通認識は、参議院は行政監視機能をより重視すべきである(※2)ということです。
※1 2013.5.22参議院憲法審査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示
※2 2016.11.16参議院憲法審査会 西田実仁議員発言PDFファイルを表示
※2 参議院改革協議会報告書(令和4年6月)101頁「(2)行政監視機能のさらなる充実」※2 2016.11.16参議院憲法審査会 西田実仁議員発言PDFファイルを表示
民主主義の原理に基づいて、「行政監視」の意味を考え、参議院の役割として捉え、選挙制度の議論につなげる体系的な説明が必要です。現行の学説にはこれが完全に欠けています。学者は、「行政監視」とは何かを考えないため、「行政監視」を定義できず、「行政監視」を参議院の役割として捉えることができません。また、選挙制度が参議院の役割(目的)を達成するための手段であるという基本的な認識がないため、衆参の違いが出ればよいという、何でもありの選挙制度の議論が展開されています(※)。これは、参議院改革の議論が混迷する大きな原因の一つと言えるでしょう。参議院の役割(目的)を真正面から議論せず、選挙制度(手段)の議論を展開するという愚を続けている限り、参議院のあるべき姿は決して見えてきません。このように、学者が「行政監視」とは何かを考えないことの害悪は重大です。私は、行政監視と二院制に関する学者の議論は、著しく非論理的で、学問の体を成しておらず、思想的土台である民主主義の原理から体系的に作り直す必要があると考えます。それは、机上の付け焼き刃のような議論ではなく、国会の実務を踏まえた確かなものでなければなりません。この問題は、私がこのホームページ「行政監視研究会」を開設する第一の動機になりました。今こそ国会の実務家たち(議員と職員)が覚醒すべき時なのです。
※2016.11.16参議院憲法審査会 大山礼子参考人発言PDFファイルを表示