行政監視研究会

「参議院人事行政監視院+衆議院会計検査院」構想

2018年7月31日、大島理森衆議院議長は、異例の談話の中で「行政を監視すべき任にある国会においても、その責務を十分に果たしてきたのか」、「憲法及び国会関係諸法規によって与えられている国会としての正当かつ強力な調査権のより一層の活用を心掛けるべき」と述べています。PDFファイルを表示

行政の実態調査のためのマンパワーが不足している
荒井達夫は、国会が行政監視機能を十分に果たせない最大の原因は、行政の実態調査のためのマンパワーが不足していることにあると考え、「参議院人事行政監視院+衆議院会計検査院」構想(※)を提唱しています。この構想は、組織に人が配置され、そこに金が流れることで法律が執行されるという基本的な認識に基づいています。さらに、国会が政府と官僚機構による法律の執行を監視するためには、行政の組織と人事を継続的に監視する仕組みが不可欠であるという考えにも基づいています。この構想が実現すれば、国会の調査機能が大幅に強化され、参議院の常時監視がシステム化されます。また、今日の重大な政治行政の問題となっている公務員による公益通報にも対応する仕組みとなっています。これにより、国会審議が劇的に変化し、現在の内閣人事局を活用する強い内閣に対して強い国会が実現し、その結果、政治行政が大きく正常化すると予想しています。
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※「参議院人事行政監視院」のポイントPDFファイルを表示
※2019.6.3参議院決算委員会 風間直樹議員発言PDFファイルを表示
※2011.5.30参議院行政監視委員会 中島忠能参考人(元人事院総裁)発言PDFファイルを表示

●行政の内部統制機関の機能不全に対応する改革案である
この構想は、機能不全に陥った会計検査院、人事院、総務省行政評価局の権限と人員を国会に移管することにより「行政監視」のシステムを構築するものであり、憲法改正を必要としません(※1)。法律改正だけで実現できる合理的で効率的な統治機構改革案と言うことができます。省ぐるみの公文書の改ざんという行政の危機的状況の中で、問題の本質(行政の内部統制機関の機能不全 ※2)を捉えた具体的改革案です。「行政監視」は国会がつくった法律を内閣が誠実に執行しているか見張る国会の活動であり、行政監視システムは本来国会中心に構築されるべきなのです。
※1 2011.5.30参議院行政監視委員会 中島忠能参考人(元人事院総裁)発言PDFファイルを表示
※1 2016.2.17参議院憲法審査会 荒井達夫参考人発言PDFファイルを表示
※2 東京新聞2019.2.18 荒井達夫インタビュー記事PDFファイルを表示

●AI技術の活用で、行政監視委員会の業務を大幅に改善する
参議院行政監視委員会は、「行政監視に関する事項、行政評価に関する事項、行政に対する苦情に関する事項」(参議院規則第74条第15号)を所管しており、これらの業務はAIとの親和性が高く、AI技術の活用によって業務の質・量の両面で大幅な改善が可能です。特に行政の組織構造や人事情報も、AIによって多角的に分析・可視化することが可能であり、さらに、人事行政監視院の創設による人的資源の拡充で、行政の現場視察が徹底されれば、参議院を中心とする行政監視システムは制度的にも、実務的にも完成に近づくと私は考えます(※)
第一に、「行政監視」では、主権者国民に対して法律が誠実に執行されているかどうか、
第二に、「行政評価」では、法律の誠実な執行を前提として、各省の政策が能率的、効果的に実施されているかどうか、
第三に、「行政に対する苦情」では、公益通報を含め、行政機関による法律執行と政策評価に関し国民がどのような不満や怒りを感じているか、
これら所管の全ての業務が、参議院人事行政監視院が稼働することによって、適切に行わわれるようになると考えます。すなわち、公益通報を含めた行政への苦情をAIで効率的に分析することにより、組織人事上の問題点を明らかにし、それを参議院行政監視委員会の質疑や現場視察に活かすことができます
※「参議院人事行政監視院+衆議院会計検査院」構想 AIによる評価PDFファイルを表示

●人事行政監視院による下準備で行政監視委員会の機動的な現場視察が可能になる
何よりも、行政の組織・人事の観点から法律執行の実態が把握できることの効果が大きく、それを前提に、行政監視委員会が行政の現場視察にフットワーク軽く機動的に出動する体制(※)が実現します。この効果は絶大です。人事行政監視院が常時、現場視察の下準備を行い、行政監視委員会が適時に行政の現場を調査できる体制があるだけで、内閣と官僚機構は法律の誠実な執行により注意を払うことになるからです。不誠実な行政を抑止するとともに、誠実な行政を促進する力が制度的に働くことになります。これが、真の意味での「監視」の効果であると考えます。さらに、行政の現場視察において議員と職員との間で実質的で深度のある議論が交わされることで、国会審議の質が飛躍的に向上し、形式的で空疎な議論が大幅に減少すると予想されます。これらは、参議院行政監視委員会の首席調査員を務めた荒井達夫の実体験から確実に言えることです。また、行政監視委員会の審議では、質疑内容が政治責任の追及よりも専門的・実務的なものになり、事務次官から課長まで官僚の答弁が中心になるため、大臣の出席の有無をめぐる紛糾は少なくなるという副次的効果も見込まれます。これは、行政監視委員会が通年で活動する体制を整えるうえで、大きな利点になると思います。
※2014.4.9参議院国の統治機構に関する調査会 杉久武議員・山下栄一参考人(元参議院行政監視委員長)発言PDFファイルを表示

●キャリアシステムと天下りの問題の全貌が明らかになる
荒井達夫がわが国行政の最大の問題と考える国家公務員のキャリアシステムと天下りについても、その全貌が明らかになると期待しています。各省ごとに一人の事務次官をつくり出すために職員が生涯を懸けて競争するキャリアシステムは、出世意欲という私益追求が不可避的に国家レベルでの反公益となってしまう宿命を持つ人事の仕組みです。この問題に対して、「参議院人事行政監視院」構想は、従来の国会による行政監視機能の限界を打破し行政の組織・人事の中枢に切り込むことを最重要の目的とします。これは、わが国が「官僚が支配する国」から「国民がルールを通じてコントロールする国」へ転換を図るために不可欠なことです。
1. キャリアシステムの問題点の可視化
キャリアシステムが国家公務員人事の硬直化と行政の閉鎖性を生み、結果として国民のニーズから乖離した政策決定や、幹部ポストを巡る問題の温床になっていると考えます。 人事行政監視院は、国権の最高機関という権威の下、行政内部の人事情報や組織改編の実態を調査・分析することで、従来の国会審議では見えなかったキャリアシステムの運用実態、意思決定の過程、そして制度的な弊害の全貌を明らかにすることが期待できます。
2. 天下りの実態解明と是正
天下りは、公務員が退職後に官僚OBの支配する団体や企業に再就職する慣行であり、これは官民癒着、不透明な政策決定、公的資金の私的利用といった行政倫理上の重大な問題を引き起こしてきました。人事行政監視院は、退職公務員の再就職状況や、それが政策決定に与える影響について、第三者的立場から継続的かつ徹底的に監視・報告を行うことで、天下りに関する隠されたネットワークや慣行の全貌を白日の下に晒します。これにより、天下りの実効性のある規制や法改正の基盤が整備されることが期待できます。
行政監視機能の強化とは、単に個別の不正を摘発することではなく、行政のガバナンス(統治構造)そのものを根本から民主的に改革するための手段でなければなりません。

なお、「参議院人事行政監視院」構想は、風間直樹参議院議員と荒井達夫の議論の成果であり、その源流は末松信介参議院行政監視委員長と荒井達夫の議論(※)にあります。まさに国会の実務家(議員と職員)による共同作業の結果です。
※2016.2.17参議院憲法審査会 荒井達夫参考人発言PDFファイルを表示

「行政監視研究会」は、元参議院憲法審査会首席調査員で千葉経済大学特任教授の荒井達夫が主宰する「行政監視」に関する研究会です。
「行政監視」は、国会の議員と職員という実務家が切り開く新しい学問分野です。
このホームページ(2022年8月26日公開)は、荒井達夫が単独で作成しており、「行政監視」に関する最先端の国会論議を紹介し、「行政監視論」の教科書となることを目指しています。

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