行政監視研究会

行政監視と自衛隊

防衛行政を国会の完全な監視下に置く

●自衛隊を「国土防衛隊」と「緊急援助隊」に改編する
自衛隊については、現行の自衛隊法に定められた任務区分に基づき、軍事的任務(防衛出動等)と非軍事的任務(災害派遣、国際緊急援助等)を制度的に分離し、それぞれを担当する組織として「国土防衛隊」と「緊急援助隊」を新設・改編するのが良いと考えます。これにより、自衛隊の二重的性格を整理し、両組織を行政機関として「行政監視=法律執行の監視」の枠組みに明確に位置づけることが可能となります。特に「国土防衛隊」の業務については、軍事に関する行政作用である防衛行政として明確に位置付け、国会の完全な監視下に置く必要があります。この再編案は、憲法第9条との整合性の確保、文民統制の実効性の強化、行政監視の制度化と防衛行政の透明性の向上、国民への説明責任の明確化といった統治機構上の主要課題に対して、体系的かつ筋の通った解決策を提供します。なお、国土は、領土・領海・領空で構成され、国土防衛隊は、その意味での国土を防衛することを任務とします。また、国政すなわち、国家が行う立法・行政・司法の作用から立法と司法を除いた残余が行政であり、それはすべて法律の執行であることから、「国土防衛隊」と「緊急援助隊」の任務も法律の執行である以上、当然「行政監視=法律執行の監視」の対象である行政に含まれることになります。


そこで、憲法第9条については、第1項を維持したまま、第2項を次のように改正することを提案します。

「前項の目的を達するため、国土防衛隊及び緊急援助隊を保持するものとする。」
この文言は、憲法第9条第1項の戦争の放棄、武力による威嚇・行使の否認を前提にした上で、同項の目的達成に必要な組織を保持するという構造になっています。この内容の改正であれば、第2章の章名も「戦争の放棄」のままで不自然ではありません。また、「戦争の放棄」は、平和国家日本を象徴する憲法規定ですから、そのまま維持するのが良いと考えます。

「国土防衛隊」は、その名のとおり、国土(領土・領海・領空)の防衛を主要な任務とする実力組織(軍事的組織)です。国家は、国土・国民・主権の三要素によって成立します。したがって、他国による武力攻撃で国土が侵害される事態は、国家の存立そのものが脅かされる重大な危機といえます。このような事態に対処するために、国家は国際法上、本来の権能として自衛権を保有しています。「国土防衛隊」は、この自衛権を具体的に行使するための組織として位置づけられ、国内法上は行政機関の位置づけですが、国際法上は「軍隊」の扱いになります。すなわち、「国土防衛隊」は、国内法上は「公共の利益」実現のための行政機関として文民統制および行政監視の枠組みに服する一方、その任務と能力の実質に照らし、国際法上は「軍隊」として扱われるということです。英語訳は、「National Territorial Defense Force」であり、これは国際法上の扱いを明確にし、外交上の透明性を高めます。「自衛隊(Self-Defense Forces)」という名称は、国際社会では「軍隊なのに軍隊と呼ばない」という特殊性ゆえに誤解を招きやすいですが、「国土防衛隊」であれば、その問題が解消し、国際法上の保護がより確実になり、結果的に隊員の安全確保につながります。特に9条改正論が最近の安全保障環境の悪化を問題にするのであれば、この点は最重要事項と言ってもよいと考えます。


●集団的自衛権、敵地攻撃能力の是非の議論は不要になる
「国土防衛」という明確な目的に限定されるため、自衛権行使が個別的か集団的かという区別は本質的な問題ではありません。目的が明確であれば、どのような自衛権を行使するかは手段の問題に過ぎないからです。すなわち、「国土防衛」の目的を達成するために必要な限度で、個別的・集団的自衛権のいずれの手段も選択可能となるということです。したがって、集団的自衛権の是非をめぐる議論は不要になります。さらに同様の論理で、「敵地攻撃能力」の有無は、「国土防衛」という目的を達成するための手段の選択にすぎず、憲法論としての議論は不要となります。現在の憲法第9条をめぐる議論は、「自衛権」や「自衛隊」という語句をどのように条文に書き込むかという手段的な問題に偏っています。しかし、本来まず問われるべきは、国家が警察力を超える実力組織を保持する目的は何か、という根本的な規範設定です。荒井私案は、この欠落を補うために、実力組織の存在理由を「国土防衛」という目的に限定して憲法上明確にしています。

また、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」という、前項(第9条第1項)の目的が「公共の利益」の実現であることは、議論の余地がありません。「公共の利益、すなわち、全国民に共通する社会一般の利益」が、対外的な問題に関係した時、それが「国益」として現れるわけです。この整理により、憲法第9条第1項と第2項の規範構造が「公共の利益」を目的とする一貫した体系を持つようになります。「一般意志(国民全体の意志)は公共の利益のみを目指す」を前提に、第1項で法目的を、第2項で法手段を定めるという明解な構造です。


●問題の本質は「自衛」という言葉にある
なお、自衛隊が本来の「防衛」という枠を超えて、クマ対策や家畜の防疫といった民生支援の便利屋のように扱われている現状に対し、「緊急援助隊」構想は、極めて適合性が高いと考えます。そもそも憲法改正は、憲法の条文と現実とのズレを是正し、法解釈上の問題を解消するために行うべきものです。しかし、憲法第9条に自衛隊を明記するだけでは、集団的自衛権などをめぐる解釈の問題は何も整理されません。「自衛」は、現実の安全保障環境において、具体的に適用範囲を限定することが容易ではなく、法律用語として使うには本来ふさわしくありません。明確に定義できない言葉では、適切な法の制度をつくり、適切に制度監視することは不可能です。そのため、この種の改憲案には合理性があるとは言えないと考えます。これに対し、荒井私案は、実力組織の存在理由を「国土防衛」という目的規範として憲法に明示することで、70年以上続いた手段論中心の解釈論争を不要にするとともに、災害等の今日的な課題にも制度的に対応し得るという、きわめて強い合理性を備えています。憲法第9条を現状に合わせて、目的と手段の関係を明確にした条文化であり、法解釈上も当然のことを述べたに過ぎません。

緊急事態条項の是非と自衛隊の在り方は、「行政監視に関する荒井・竹田説」と「衆議院内閣制+参議院行政監視院」構想によって解決できる問題であると、荒井達夫は考えています。これは、従来の自衛隊明記論や9条改正論等の改憲論とは次元の異なる、統治機構全体を再設計する提案です。民主主義国家では、国民に負託された監視を前提としない、軍隊も緊急事態も、論理的に正当化できません。

「行政監視研究会」は、元国会職員で大学特任教授の荒井達夫が主宰する「行政監視」に関する研究会です。
「行政監視」は、国会の議員と職員という実務家が切り開く新しい学問分野です。
このウェブサイト(2022年8月26日公開)は、荒井達夫が単独で運営しており、「行政監視」に関する最先端の国会論議を紹介し、「行政監視論」の教科書となることを目指しています。

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